はじめに
近年、急速な技術革新やグローバル化の進展により、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。この変化に対応するため、多くの企業がリスキリング(既存の従業員の能力を再開発すること)の必要性を感じています。しかし、日本企業特有の課題により、その導入と推進に苦戦しているのが現状です。
本記事では、日本企業におけるリスキリング推進の壁となっている課題と、それぞれの解決策を詳しく解説します。人材投資への消極性を改善する方法、社員の学習意欲を高める具体的な施策、そして人事制度の課題を克服するアプローチについてご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 日本企業におけるリスキリングの現状
まず、日本企業のリスキリングへの取り組み状況を確認しましょう。
[画像: リスキリングの認知度と取り組み状況のグラフ]
総務省の調査によると、リスキリングという言葉の認知度は36%にとどまっています。また、リスキリングに「すでに取り組んでいる」企業は11.5%、「今後取り組む予定がある」企業は5.5%、「取り組むことを検討中である」企業は28%となっています。
これらの数字から、リスキリングの重要性は認識されつつあるものの、実際に取り組んでいる企業はまだ少数派であることがわかります。しかし、「予定がある」「検討中」の企業を合わせると約45%に達するため、今後リスキリングへの取り組みが加速する可能性も高いといえるでしょう。
2. 企業側の取り組み姿勢の課題
2.1 人材投資の消極性
日本企業は、長年にわたり人材を「資源(Human resource)」と捉え、採用や教育費を「費用」とする考え方が主流でした。この結果、人材開発への投資は先進国の中で最低レベルにとどまっています。
[画像: 各国の人材開発投資比較グラフ]
グラフからわかるように、日本企業の人材開発投資は、欧米諸国と比較して著しく低い水準にあります。この背景には、短期的な業績向上を重視するあまり、長期的な人材育成への投資を抑制する傾向があります。
しかし、リスキリングを効果的に推進するためには、この考え方を根本から変える必要があります。人材を「資産(Human capital)」と捉え、積極的に投資を行うことで、企業の長期的な競争力を高めることができるのです。
2.2 乏しい人材競争力
人材への投資の低さは、日本企業の人材競争力の低下にもつながっています。
[画像: 各国の人材競争力比較グラフ]
グローバル人材競争力指数では、日本は先進国の中で最下位クラスに位置しています。この状況は、優秀な人材の獲得や維持を困難にし、結果として企業の競争力低下につながる悪循環を生み出しています。
リスキリングを通じて社内の人材を育成し、競争力を高めることは、この悪循環を断ち切るための重要な施策となります。
3. 個人側の学ぶ意識の課題
3.1 自己研鑽が苦手な日本人
リスキリングを成功させるためには、企業側の取り組みだけでなく、個人の学習意欲も重要です。しかし、日本の社会人の学習時間は驚くほど少ないのが現状です。
総務省の調査によると、日本の社会人の1日の平均勉強時間はわずか6分で、95%以上の社会人が「勉強時間は0」と回答しています。この数字は、自己研鑽に対する意識の低さを如実に表しています。
長時間労働や仕事と私生活のバランスの悪さなど、様々な要因が考えられますが、リスキリングを推進するためには、この「学ばない文化」を変革する必要があります。
3.2 個人間での差が開きつつある
一方で、学習意欲の高い層と低い層の二極化が進んでいることも見逃せません。
年収別の勉強時間を調べると、年収1000万円以上の層は、社会人全体と比較して突出して学習時間が長いことがわかっています。
[画像: 年収別勉強時間のグラフ]
この結果は、自己研鑽に積極的な人材ほど高収入を得ているという相関関係を示唆しています。同時に、学習意欲の低い層との格差が今後さらに広がる可能性も示唆しています。
リスキリングを推進する上では、この格差を念頭に置き、全ての従業員が等しく学習機会を得られるような施策が必要となります。
4. 人事制度の課題
4.1 職能ベースの人事制度
日本の多くの企業が採用している職能資格制度は、リスキリングの効果を最大限に引き出す上で大きな障壁となっています。
職能資格制度では、個人の能力や経験年数に基づいて評価や昇進が行われるため、新たなスキルを獲得しても、すぐに仕事の内容や処遇に反映されにくいという問題があります。
リスキリングの要諦は、新たに獲得したスキルを実際の業務で活用することにあります。しかし、職能資格制度下では、スキルアップしても同じ仕事を続けることになりがちで、社員のモチベーション低下につながる可能性があります。
4.2 人事業務のDX化の遅れ
効果的なリスキリングを実施するためには、従業員のスキルや学習進捗を適切に管理し、適材適所の配置を行う必要があります。しかし、日本企業の人事業務のデジタル化は遅れています。
HR総研の調査によると、日本企業でHRテクノロジーを導入している企業は2割程度にとどまっています。
[画像: HRテクノロジー導入率のグラフ]
特に中小企業では導入率が低く、人事業務の多くが依然として手作業で行われています。この状況では、大規模なリスキリングプログラムを効率的に運用することは困難です。
5. リスキリング推進のための解決策
これらの課題を踏まえ、日本企業がリスキリングを効果的に推進するための解決策を提案します。
5.1 人材投資への姿勢転換
– 経営層の意識改革:人材を「コスト」ではなく「資産」と捉え、積極的な投資を行う姿勢を明確にします。
– 人事部門の役割強化:人事部門を戦略的パートナーと位置づけ、リスキリングプログラムの設計と実施を主導させます。
– 社員の意識改革:継続的な学習の重要性を伝え、自己研鑽を企業文化として根付かせます。
5.2 ジョブ型人事制度の導入
– 職務分析と職務記述書の作成:各ポジションに必要なスキルと責任を明確化し、キャリアパスを可視化します。
– スキルマッピングの実施:社員のスキルと職務のマッチングを可視化し、適材適所の配置を促進します。
– 評価・報酬制度の見直し:スキルと成果に基づく評価・報酬体系を構築し、リスキリングへのモチベーションを高めます。
5.3 社員の学ぶ意欲を高める施策
– 業務時間内学習時間の確保:週1回の「学習デー」や1日1時間の「学習タイム」など、公式に学習時間を設けます。
– リスキリングの意義とキャリアパスの明確な提示:スキル獲得によるキャリアアップの具体例を示し、学習の動機付けを行います。
– オンライン学習プラットフォームの導入:時間や場所を選ばず学習できる環境を整備し、自己学習を促進します。
5.4 人事制度の課題克服
– 職能資格制度の見直しとスキル活用の仕組み作り:スキルベースの評価制度や柔軟な職務変更制度を導入します。
– HRテクノロジー導入による人事業務のDX化:タレントマネジメントシステムや学習管理システム(LMS)を導入し、効率的な人材管理を実現します。
– 経営戦略と連動した中長期的人材育成計画の策定:3〜5年の視点で人材育成計画を立て、経営戦略と人材戦略を一体化します。
まとめ
リスキリングを効果的に推進するためには、企業の姿勢転換、人事制度の改革、社員の学習意欲向上など、多面的なアプローチが必要です。日本企業特有の課題を克服し、経営戦略と連動した人材育成を行うことで、企業の競争力向上と社員のキャリア発展の両立が可能になります。
リスキリングは一朝一夕で成果が出るものではありません。しかし、今後の企業成長と個人のキャリア発展にとって不可欠な取り組みです。本記事で紹介した解決策を参考に、自社に適したリスキリング戦略を構築し、実践していくことをお勧めします。
